1-7 問答 ①

「シエラ」を辞める決心をした後も、沢山考えた。

この先ほんとうに、僕はやっていけるのだろうか。レールから外れて落ちぶれてしまうんじゃなかろうか。本当に自分は音楽の道で、生きてけるのか。ただ、苦しいことから、逃げたいだけじゃなかろうか。

 

そもそも音楽で生きていくというのは、そんなに簡単なことではないと思うぞ?

今までに何人、プロミュージシャンと出会った事がある?

バンド時代に俺より遥かに輝いてた奴らが、何人音楽を続けている?

とてもじゃないが敵わないと思っていたギタリスト達ですら、成功している奴はいないんじゃないか?

才能も経験もないオレが、どうやったらやっていけると思うんだ?

それに同じ年の奴らは、もう4年も先を生きてるんだぞ。

学校にいくお金もないだろう?

心の中に湧いてくるのはこんな言葉ばかり。

僕がネガティブだったから、自信がなかったから、こんな言葉が浮かんで来たというわけではないと思う。

客観的に見て、自分はそんな状況だった。

でも、時間が経てば経つほど、音楽への気持ちが大きくなる。

なんとかギタリストとして、音楽の世界で生きていきたい。

心の中のギターが、どんどんどんどん大きくなる。

 

能力面や経験面で言うと、プロギタリストになるということが夢のように感じられた。

しかし僕は魔法の言葉に動かされていた。

「好きなヤツには敵わない」だ。

たとえすぐに芽が出なくても、10年か20年を見据えて努力をすれば、なんとかなるんじゃないか。

今から約40年かけて、60歳までになんとかするつもりで人生を捧げれば、なんとかなるんじゃないか。

音楽はスポーツと違って、死ぬまで現役でいられる。

諦めなければ、まだまだまだまだチャレンジできる。努力の仕方を改善できる。成長角度も、もっともっと上げられる。

ギターを上手くなるためなら、なんだってできる。

ギターのためなら何年でも挑戦を続けられる。

その自信はあった。

 

もう一つ、僕を支えてくれたことがある。

「どんな仕事も大変。本人の向き合い方次第で、いい仕事にも悪い仕事にもなる。」

これは毎日たくさんのお客様と会話し、様々な人生をのぞかせてもらう中で作り上げた、僕の仕事哲学だ。

傍目には羨むような仕事をしている人でも、その人自身は自分と同じように悩んでいたり、それまで僕が全く興味を持っていなかった仕事をしている人がメチャクチャかっこよかったり、本当に仕事というのはその人次第だと思うようになった。

モヤモヤ悩みまくっている時に「美容師って本当にカッコいい仕事だよね」と言われて、「その仕事を楽しめてない僕って最悪」と思うこともあった。

僕が本当にかっこいいと思う社長の話を聞くと、誰よりも大変な仕事だと思ったし、思いもよらない経緯で今の仕事に就くことになったという人の話も沢山聴いた。

その仕事に対し情熱を持って向き合っている人は幸せそうに見えたし、それに比べ、なんとなく今の仕事を選び毎日をこなしているという人は、どことなく疲れているように見えた。

 

でも、本当に美容師を辞めてしまっていいのか。

沢山の人に応援してもらったのに。

自分で決めた道なのに。

一度、辞めグセが就いてしまったら、このままズルズル落ちていってしまうかもしれない。

少しでも間違うと、僕はダメになってしまうかもしれない。

お父さんとお母さんのように、ガラガラと人生を崩してしまうかもしれない。

正直にいうと僕は自分の人生が、将来が・・・

ちょっと怖い。