1-5-3 お金がない

高校生の頃から、アルバイトをするようになった。

うどん屋の皿洗い、大晦日の蕎麦屋、スーパーのレジ打ち、ガソリンスタンド、夜の道路に立って棒を振るガードマン、引越し屋、居酒屋、スイミングコーチ。

専門学生時代も合わせて、学生時代に8つのアルバイトを経験した。

思春期以降は、いつも「お金がない」という感覚に追われていた気がする。

当時は家が貧乏だからという風に思っていたが、いま考えてみると、それはちょっと違う気がしてきた。

母親が会話の中で何気なく漏らした「お金がない」という言葉に過剰反応していたのと、自分自身の欲が大きかったのが原因ではないかと思っている。

当時は「生活のため」とカッコつけていたけど、アルバイト代は携帯代、遊びに行くお金、楽器代に使っていた。

「うちにはお金がないから働かなければいけない。だから時間がない。余裕がない」と思い込んでいたのだが、家では朝夕しっかり食べさせてもらっていたし、毎日弁当も持たせてもらっていた。

周りと自分を比べて、願望と現状を比べて、「お金がない」という勝手に作り出した思い込みに甘えて、自分を正当化していた気がする。

「高校生から働く自分は偉い」

「親なんて頼りない」

「俺は自分の生きたいように生きる」

「働かなきゃいけないんだから、〇〇なのは仕方ない」

「バイトさえしなくてよければ、〇〇なはずなのに」

甘えて、自分を正当化していた。

今思えば本当にそう思う。

とはいえ、学生時代からアルバイトを通して「働く」という事と向き合えたのは非常にいい経験になった。

自分よりもはるかに年上の先輩たちや不特定多数のお客さん達に社会の中で揉まれながら、学校に通うだけじゃ得られない体験をいっぱいさせてもらったと思う。